厚岸湖・別寒辺牛湿原

厚岸湖・別寒辺牛湿原のカモ類


厚岸水鳥観察館専門員  澁 谷  辰 生 

    

  道東の湿原というと、まず1番に名前が出てくるのは釧路湿原、次に霧多布湿原、そして風蓮湖という名前が出てくるのではないでしょうか? たぶん厚岸町の別寒辺牛湿原は、道東の湿地群の中でも一番知名度が低い場所の一つではないかと思います。

  しかし、水辺の鳥を取り上げただけでも、冬に渡来する海ワシ類の数は、多い年で200~300羽以上、オオハクチョウの越冬数は餌付け無しで2,000~3,000羽、通過するものは約1万羽以上。これらオオハクチョウも含めてカモ類は約20種。その数は千~万の単位。今までなぜ水鳥飛来地として有名になっていなかったのか不思議でなりません。

  そこで今回は、私が厚岸町に来て5年間で確認した、厚岸水鳥観察館周辺にやってくるカモ類を紹介いたします。

案内図「厚岸湖・別寒辺牛湿原」  水鳥観察館周辺は別寒辺牛川の河口にあたる部分にあり、川の出口は厚岸湖になっています。河口周辺には湿原が非常に複雑に入り組んで水路がたくさん発達しており、カモ類にとって身を隠すスペースがたくさんあります。また、厚岸湖は海とつながっている気水湖なので、時間帯によっては気水域の干潟も出現するちょっと変わった環境になっております。もちろん水草、そしてアイサ類にとっては魚類も豊富に存在し、餌条件は申し分ありません。

  さてカモ類を、渡り・越冬・繁殖で分けますと、一番多いのは表のように<渡り・越冬>組です。種類によって大きく2グループに分かれまして、まず最初に表の3~12番の淡水ガモが9月~10月に第1陣としてやって来ます。マガモが少し早めに、オナガガモ・ヒドリガモ・ハシビロガモ・コガモが少し遅れてやってくるという感じでしょうか。その隙間に、カルガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、まれにシマアジなどが入り込んでいるような感じです。

  この時期の淡水ガモの特徴なのですが、一見無意味に思える頻繁な飛行、着水が見られます。飛び立つ単位は、異種も混じり合っている数十~百羽前後ですが、飛び立つと同時に周辺の複数のグループもつられて飛び立つのでその光景は圧巻です。ちょうどムクドリの群れが町中を飛んでいる様子を思い浮かべていただければよいでしょうか。これがカモで起こるのです。

  そして約1ケ月遅れて13番以降の潜水ガモ(海ガモを除く)が渡ってきます。こちらは、淡水ガモが空を乱舞するのとは対照的に、水上で編隊を組んで交互に潜水する姿が見られます。

 当然ですが、この時期ですと全てがエクリプスですので慣れないと同定は難しいと思いますが、エクリプスマニアな方は見て飽きないと思います。

  これらカモが出揃うと、コガモやハシビロガモなど通過するだけの種類を除いて12月中旬までダラダラとその数が増えていきます。そし別寒辺牛川が凍り始めるのもこの月。氷が張り始めると途端に元気が良くなるのがアイサ類。カワアイサは年中見られますが、ミコアイサも数十羽の単位で見られるようになります。またウミアイサも少数が河川に入り込んできます。

  さて、ここまで書いて1種類だけ説明していない大型カモ類があります。それはオオハクチョウです。最初に数を示したとおり、実は厚岸湖~別寒辺牛川河口はオオハクチョウの国内でも有数な中継地・越冬地なのです。(ちなみに、厚岸湖は十分な水草が自生しているため餌付けは行っておりません)

  オオハクチョウは、10月の初め~中旬頃に第1陣がやってきて12月中旬頃に渡りのピークを迎えます。その数は、瞬間的に数えて4,000~6,000羽ほど。もちろんこれは短時間に目の前にいるものだけを数えていますので、実際は数えている最中に飛来してくるもの、そして南下していくものがいますし、さらにそれが何日も続くので、実際の飛来数はもっと多いと推定できます。それらを大雑把に推定すると、約1万羽以上が通過しているようです。これは根室の風蓮湖が同じオオハクチョウの中継地になっており、厚岸より少し早く1万羽になっていることを考えると、シベリアから渡ってきたオオハクチョウは、風蓮湖~厚岸湖ラインを大部分が通過しているのかな?と想像できます。実はこのあたりのオオハクチョウの動きはよくわかっておりませんで、今後の地域間での調査の連携が必要になってくる部分でもあります。

  12月にピークを迎えたオオハクチョウは1月になると一気に減少し2,000~3,000羽程度になります。それは、別寒辺牛川がほぼ結氷し、厚岸湖も海の近くを残して結氷するのと同時に、越冬個体を残してほとんどが南下してしまうからです。これはオオハクチョウに限らず、他のカモ類も同様に減少します。ただし、氷で一気に狭くなった水面に越冬個体が集中するので、見た目は多くなったような気がします。

  この状態が3月初めくらいまで続きます。迷鳥ガモも希に出てきまして、今年はオオホシハジロが最大12羽、結局春まで滞在していました。その他ヒメハジロが12月頃観察されることがあります。

  3月後半~4月は、今度は北上の季節に入ります。氷が解け始めると再びしばらくはアイサの天国になり、河川内の氷が流れてしまうと、他のカモが侵入してきます。減少したオオハクチョウも再び増え始め、だいたい4月一杯でほとんどが飛去してしまいます。他のカモ類は少し遅れて5月一杯で姿を消します。

  さて、この原稿を書いているのは7月。今はどんなカモがいるかというと・・・マガモ、マガモ、どこを見てもマガモ。希にヒナ連れのカワアイサ。カヌーで川を下っていると、ホントに希にオシドリが出てくる。とっても寂しいのです。タンチョウやアオサギはいるけど、北海道は典型的な夏型観光の地域。一番水鳥が少ない時期にはお客様は多くて、一番水鳥が多い時期にお客さんはいないのです。何とか冬の厚岸の姿を見てもらいたいのですが、道東は辺境の地、なかなか皆さんやって来てくれません。さて、この原稿を見た人は来てくれないかなぁ。

 

表 厚岸水鳥観察館周辺で確認できるカモ類

   
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月 12月
1月
2月
3月
分 類
 1
オオハクチョウ      
C
 2 オシドリ      
 3 マガモ  
 4 カルガモ        
B
 5 コガモ        
B
 6 ヨシガモ      
C
 7 オカヨシガモ
小数
 
小数
 
B
 8 ヒドリガモ      
C
 9 アメリカヒドリ
ごく希
 
ごく希
 
B
10
オナガガモ      
C
 11 シマアジ  
小数
 
B
 12 ハシビロガモ      
C
 13 ホシハジロ      
C
 14 オオホシハジロ
 1999年は最大12羽
 
E
 15 キンクロハジロ      
C
 16 スズガモ      
C
17
ホオジロガモ      
 18 ヒメハジロ
1羽程度が12月に見られることが多い 
   
B
 19 ミコアイサ      
C
 20 ウミアイサ      
C
 21 カワアイサ  
D

分類  A:繁殖  B:渡り  C:渡り・越冬  D:繁殖・渡り・越冬  E:その他

(平成11年9月発行「北海道野鳥だより」第117号から転載)

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