室蘭市測量山とその周辺 

北 山  政 人 

 今回は私の探鳥地として、室蘭の測量山およびその周辺からの秋のタカ渡りを中心に書いていきます。太平洋に突き出た絵鞆半島、室蘭市の市街地近郊の測量山および周辺の海沿いの緑に覆われた場所が探鳥地です。まず観察場所としては測量山の頂上、隣の女測量山の頂上、海に面したマスイチの展望台周辺があります。それぞれ観察に適している条件は異なります。測量山の頂上の見晴らしは良く、絵鞆半島全体を見通す事が出来るので飛んでいるタカを数えやすいのですが、気象条件によっては測量山の周辺を飛ぶ個体が少ない事もあります。女測量山の頂上はタカ類以外の鳥たちも見やすい環境です。また運が良ければ、渡り途中のカラ類の群などに、ハイタカやツミが攻撃をかけるシーンが目の前で展開される事もあります。チゴハヤブサも、小鳥を捕まえている様子を見かけます。狩りに失敗したタカが僅かな時間、至近距離の木の枝に留まる事もあります。ツミの雄の成鳥を、そんな状況で見た事があります。

 マスイチの展望台周辺もタカ以外の鳥たちが、渡りの前に続々集まる姿が見られ、この地で繁殖するハヤブサが近くで良く見られるなど素晴らしい探鳥地です。地図によってはマスイチセの名称になっていますが、これはアイヌ語で、一説によるとウミネコの家との意味だそうです。海沿いの断崖絶壁に面しており、付近の岩場ではウミネコやオオセグロカモメやウミウ、イソヒヨドリなどが見られます。海上の方に目をやると、沖合に、オオミズナギドリやハイイロミズナギドリのミズナギドリ類やトウゾクカモメ類を観察する事もあります。ヒヨドリの大群の渡りなどで、地球岬の方が鳥の渡りルートとして有名で、素晴らしい探鳥地ですが、測量山周辺やマスイチ岬でもタカ類以外の鳥たちの動きを、この季節には、頻繁に見ます。日本国内または、道内で留鳥とされる種類も多く渡っていくのが見られます。メジロやヒガラの群れは良く見ますし、藪の中からはウグイスや、アオジなどのホオジロ類の地鳴きをよく聞きます。枯れ木の上にエゾビタキがいるのを見たりします。天気の良い日には上空にアマツバメやイワツバメの大群が見られます。秋も深まるとツグミ類の動きも頻繁になり、シロハラやマミチャジナイにも会えるかもしれません。カケスの群も見られますし、ホシガラスも見られています。また、最近は道内でも冬鳥として定着しつつあるミヤマガラスの群も見られています。

 室蘭のタカ渡りは9月のハチクマの渡りから始ります。年によって少々異なりますが、中旬にピークを迎えます。私の記録では1日にハチクマを80羽以上数えた事もあります。成鳥が早めに渡っていく傾向にあり、中旬を過ぎると、その年生まれの幼鳥が多くなります。数は極めて少ないのですが、10月に入って渡って行くハチクマも見かけます。無事に越冬地であるフィリピンやジャワなどに辿り着けるのか心配してしまいます。色々な色彩の個体のいるハチクマは、観察し応えがある、とでも言いましょうか、その不思議な生態と同じぐらい、私の興味を引きつけてなりません。繁殖地と越冬地がはっきり分かれていて、長距離を渡って行くハチクマは渡りの時季が短い間に集中します。

 ノスリ、ハイタカ属などのように日本国内でも越冬し、冬季は北から来る個体のいる種は長い期間において渡りが続きます。これらの渡りのピークは10月に入ってからですが、ハチクマの渡りの時季においてもある程度の数が見られます。ノスリは10月に入ると1日に200から400羽を超える事もあり、事実上、測量山のタカ渡りの主役でしょう。
 ハイタカ、オオタカもこの地のタカの渡りの中心を成しています。前記の2種よりは数は少ないですが、ツミも確実に見られます。この3種の識別は、最近の図鑑などの文献の充実ぶりやデジタル一眼レフカメラの普及で、その場においても種の同定がし易くなっています。しかし、状況によってはハイタカ属の一種としておく方が無難な場合もあるでしょう。1羽だけで高高度を飛んでいると鳥の大きさも把握しにくくなります。雌雄によって大きさも異なりますし、特にハイタカは幼鳥によってはかなり羽衣に個体差があるので、私自身もハイタカ属の識別はとても奥が深いものだと、秋の室蘭に行くたびに実感しています。トビもノスリと同数かそれ以上が渡って行くものと思われます。ピークや時季が判断しにくいのですが、主に10月に入ってから、数十羽から100羽以上のトビのタカ柱もなかなか見応えがあります。

 その他、1日に見かける数は少ないですが、渡りのシーズン中に確実に見られる種類はミサゴ、チュウヒ、チゴハヤブサ、ハヤブサが挙げられます。観察地の環境を考えると、ハヤブサとミサゴについては、前者は留鳥、後者は夏鳥として生息している個体もいます。確認した回数は少ないですが、クマタカ、チョウゲンボウ、さらに晩秋から初冬にかけてはオオワシ、オジロワシの渡りも見られますし、その他の冬鳥の猛禽類の渡りも期待できるようです。じっくりと時間をかけて楽しみたい探鳥地のひとつであり、朝からお昼頃までで観察を止めてしまうのではなく、午後の時間帯も気象条件がよければ渡って行くタカたちが多数見られます。また、前記したように、その日の渡りを諦めたタカ類やハヤブサの狩りの様子が見られたりするので、観察時間は長いほど面白いと思います。夕方近くに、翌日の渡りに備えるノスリたちが測量山周辺の森の木々に続々と降りる光景に出合う事もありました。

 私にとっては、天候に泣かされたり、シーズン中でもタカの渡りが一休みした状況に出くわしたりと、毎回必ず満足な探鳥をしている訳では無いのですが、これからも、タカたちとの良い出会いを求めて出かけるのが楽しみな探鳥地です。鳥以外では本州より風にのってやって来た、タテハチョウ科のチョウ、アサギマダラが9月中によく見られます。双眼鏡でタカたちを追っていると偶然視野に入る事もあります。天候の良い日はかなり高い所を気流に乗って舞っています。長距離を移動し、渡りをするチョウとして有名です。この昆虫は全国的に見ても鳥の渡りルート、特にタカの渡る所でも良く見られているようです。

 (平成21年12月発行「北海道野鳥だより」158号から転載。転載にあたり筆者により一部修正。写真は筆者撮影。)