長都沼

 


雁の渡来地・長都沼


佐 藤  ひ ろ み   

 

 最近、雁の中継地として注目されている「長都(おさつ)沼」を紹介します。

 この長都沼は千歳川のそばにあり、ちょうど長沼町と千歳市とが境する位置にあります。沼といっても元々あった沼ではなく、長さ約2km、幅およそ300mのちょっと弓なりな幅広用水路のことを通称「長都沼」と呼んでいます。この人工的につくられた幅広用水路に最近、雁が渡来してねぐら利用するようになり、なかでもオオヒシクイは長期滞在することが明らかになりました。

案内図「長都沼」 この長都沼へのアクセスは……長沼町から、JR長都駅方面から、千歳市祝梅川方面から、それぞれアプローチできます。長沼町からは国道274号線ぞい、長沼町にある、かねひろジンギスカンのレストランから5.5kmほど入った所にある大学橋とあずまやが目印です。長都駅からは長都大橋を目指すとよいでしょう。千歳からは国道337号線を通り祝梅川を渡ったら、すぐに左に入り約4km進むと目的の長都沼に到着します。

 この付近はかつては長都沼、馬追沼、ポンユーパリ沼など多くの沼が点在し、湿地帯が広がっていてすぐに川が氾濫する地域でした。明治20年になってはじめて馬追原野に入植、4年後に造田工事が行われています。しかし洪水は絶えることなく続き、この地を豊かな農地にという悲願のもと昭和16年学生義勇軍による大学排水路掘削工事が行われました。しかしその後も大洪水は続き農業被害は絶えることはありませんでした。昭和61年から始まり平成6年まで続いた国営かんがい排水事業によりこの付近は大規模な耕地と現在の「長都沼」とになったのです。

  この人工的に造られた幅広用水路に雁類が北帰の途中に立ち寄り、ねぐらをとるようになりました。雁だけではなく3月末から4月にかけてこの長都沼を利用するカモや白鳥はおびただしい数になります。カモ類が、主にオナガガモが多いですが、満々と満ちていてときどきやってくるオオワシや何かに驚いて一斉に飛ぶ様は壮観です。この時季には北へ向かう雁、カモ、白鳥の群れがこの沼の上空をつぎつぎと通っていきダイナミックな北への流れが伺えます。この長都沼は比較的鳥を近くで観察できるのでよい観察ポイントともいえるでしょう。満々といるカモの中から多くの種類を見い出すこともでき、まさに生きたカモ図鑑ともいえそうです。種類だけでなくディスプレイ行動などもよく観察することができます。厳冬期にカイツブリを見ることもあります。白鳥たちも次々とやって来ては羽を休め何百羽もの群れが夕方ねぐらをとっては次の中継地へと旅だっているようです。

 雁の初認はその年の雪融け状態により3月の上・下旬となります。今までにマガン、ヒシクイ、ハクガン、シジュウカラガン、サカツラガン、コクガンが観察されています。ねぐらをウトナイ湖から宮島沼へ移そうとする途中で一部の雁がこの長都沼をねぐらとして利用しています。今年の春にはマガン、オオヒシクイに混じってハクガンの若鳥とシジュウカラガン7羽もねぐら利用していました。またオオヒシクイの繁殖地などを調査するため雁を保護する会等により昨年の2月に新潟県豊栄市の福島潟で捕獲し発信器を装着した、黄色い首輪のオオヒシクイ数羽が羽を休めていたこともあります。その首輪番号からいったんサロベツへ移動した個体が雪融けがすすんでいなかったためか1週間後にはまたこの長都沼へもどってきたということも判明しています。発信器をつけたオオヒシクイの電波を手がかりに、カムチャツカで初めてオオヒシクイの繁殖が確認できたという報告やテレビ番組も記憶に新しいことです。

写真「長都沼の鳥たち」 2000年3月には用水路から長都沼に流入する土砂の除去と、土砂浚渫が目的の掘削工事を開発局が行っていました。ちょうどタイミングが悪いことに雁の渡来時季と重なり、大型クレーン車やパワーショベルの音に驚いて雁がびくびくしているのを観察しています。中継地利用を放棄するのではないか、と不安がつのりました。工事のため2kmの長さの河畔林が1.6kmほども伐採されてしまい身を隠す茂みがなくなって道路から姿が露な状態にもなってしまいました。しかし沼を放棄することなく杞憂に終わりました。ただ今後は河畔林を復元するよう開発局に働きかけていかねばならないでしょう。

 この春には確認できた範囲では3月18日から雁が渡来し始め、4月26日までこの沼を利用していました。ここ長都沼では600羽近いオオヒシクイがカウントされることもありますし、26日間もの長期間にわたって滞在していた雁がいることもその標識首輪からわかっています。ねぐら利用する雁の数もかなりのものです。オオヒシクイの行動を見ているとヒシの実をむさぼるように食べていることが多々ありました。この原稿を書いている7月末に長都沼へ行ってみましたところ浚渫した場所以外の所でたくさんのヒシが繁茂していました。ガンカモ類の長期滞在をささえつづけている沼の植生と安全な環境とをいつまでも守りつづけることが大切と痛感しています。

 この長都沼には小さな駐車スペースがあり、その横に屋根付き2階建ての観察台が設置されています。駐車場以外の所に車を乗り入れて鳥を驚かせることがないようマナーを守って鳥を観察していきたいものです。

(平成12年9月発行「北海道野鳥だより」第121号から転載。写真は筆者撮影。)