水鳥見るなら濤沸湖・濤沸湖探鳥スポット案内

 

                         川 崎 康 弘  

 

  濤沸湖には年間を通じて種類・数ともに多くの野鳥が飛来する。特にシギ・チドリ類やガン・カモ類などの水鳥は非常に多く見られ、いわゆる「珍鳥」の記録も多い。
  今回は対象を水鳥に絞って、それらの濤沸湖周辺における観察ポイントを紹介していこうと思う。

(1) 白鳥公園周辺
 国道244号線を網走市街から浜小清水・斜里方面へ向かうと、「北浜」という地域を通過することになる。濤沸湖とオホーツク海はこの北浜でつながり、湖口の近くには冬季間オオハクチョウの餌付けをやっていることで有名な「白鳥公園」がある。
 冬の間はオオハクチョウはもちろんのこと、マガモやオナガガモ、ホオジロガモ、オジロワシやオオワシなどが至近距離で見られ、コハクチ写真「斜里岳を望む」ョウもごく少数ながら見られる。ここで見られるコハクチョウは道北のクッチャロ湖にいるものとは違って人から餌をもらうことはなく、やや離れたところで体を休めていることが多い。
 休憩舎から斜里岳を見通した方向には干潮時に干潟が広がり、数多くのシギ・チドリ類が観察できる。春は種類・数ともに秋の比ではないが、それでも綺麗な夏羽を見ることが出来るという意味で楽しい季節である。時期は5月中~下旬にかけてが良く、真っ赤なサルハマシギやコオバシギが複数観察されることもある。
 秋は7月中旬からちらほらと姿を見せ始め、9月上旬(特に3日前後)にピークを迎える感がある。この時期は種類も数も豊富で、トウネンでは1日3000羽を数えたこともある。
 トウネンの群中には毎年それぞれ2~3羽、年によっては5羽以上のキリアイとヘラシギが混在しているので気が抜けない。ヘラシギの場合、慣れてしまえば、サングラスをかけているかのような特徴のある顔のパターン(幼鳥の場合)から見つけるのが比較的容易であるが、嘴の先端に泥が付いたトウネンをヘラシギと誤認している向きも多いので注意が必要である。ポイントとしては、あまり嘴の形にこだわらないことである。はっきりと「ヘラ」を認識できる機会はむしろ少ない。
 また、ここではオバシギとコオバシギが見られ、コオバシギの数がオバシギの数を上回ることも希ではない。両種がいる場合はじっくり見比べてみたい。足の色の違いを記載してある図鑑が多いが、実際はあまりあてにならないことがはっきりと認識できるはずである。
 干潟にいるメダイチドリやコチドリを1羽ずつ確認していくと、ハジロコチドリの姿を確認できるはずである。春・秋の渡りの時期には必ず数羽が飛来し、濤沸湖では特にまれな種類ではない。
 なお、白鳥公園周辺のポイントはこの干潟だけでなく、隣にある「ドサンコ花園牧場」の湿地帯も各種シギ類が入る好ポイントである。春にはオジロトウネン夏羽の小群や、セイタカシギが多い年で10羽ほど入り、秋にはハジロコチドリが見やすい場所を歩いていたりするので念のために見ておくことをお勧めする。

案内図「濤沸湖」

(2) 丸万川河口
 白鳥公園から湖に沿って南側へと延びる道を進むと、しばらくして小さな橋を渡ることになる。この橋がかかっている小さな流れが丸万川で、そのまま濤沸湖へとつながっている。
 この丸万川の河口(つまり、濤沸湖との合流部)付近にも干潟が広がり、シギ・チドリ類が群れをなす。ここに集まるシギ・チドリ類の多くは白鳥公園と行き来しているものであるため、一方のポイントに鳥がいない場合には、もう一方のポイントに集結している、ということが往々にしてある。
 この丸万川河口周辺で多く見られる種としては、エリマキシギ、アオアシシギ、タカブシギなどで、タシギなどの普段は見にくい種も丈の短い湿地性草原の縁などをじっくり見ていくと比較的容易に発見できる。年によってはアメリカウズラシギが入ることもあり、また、親子連れのクイナも観察されることがある。2001年の春にはハジロコチドリが最大6羽観察された。
 また、カモ類では、ヒドリガモの大群の中に純血の綺麗なアメリカヒドリがいたり、コガモの群れの中に亜種アメリカコガモがいることも多いので1羽1羽時間をかけてじっくりと確認していくことをお勧めする。

(3)駐車場
 国道244号線を浜小清水・斜里方面へ向かい、濤沸橋から1kmほど走ると、道の右側に駐車場がある。この駐車場こそが濤沸湖最大のウオッチングポイントである。
写真「ヒオウギアヤメの群落」 駐車場から湖方向を見ると、まず広大な中島が目に入る。その奥にも細長い砂州が延びており、干潮時にはこの周辺に広大な干潟が出現し、シギ・チドリ類が集結する。秋季には非常に多くの種類が観察され、それぞれ数も多いが、特に8月中~下旬にはチュウシャクシギの100羽を優に越す大群が見られる。
 ここは干潟だけではなく、中島や湖畔の草原の中にも注意が必要である。ヒバリシギやウズラシギ(近年少ない)、ムナグロなどの他、コシャクシギやオオハシシギが見られることがある。ただし、コシャクシギはチュウシャクシギの幼鳥とやや似ているため注意が必要である。
 駐車場のすぐ前にあるクリークにはアオアシシギやタカブシギが多く、アメリカウズラシギやタシギなども見られるので充分に時間をかけて観察するのが理想である。クリークの中にコガモの群れがいたら、その中にシマアジがいないかどうかもチェックしてみよう。春なら発見も容易だが、秋はなかなか難しく、挑戦のしがいがある。
 中島周辺はヒシクイが休憩するポイントにもなっており、秋季は8月下旬から観察できる。10月を過ぎる頃には相当数に達しており、マガンも少数混在する。
 ハクチョウ類は毎年10月初旬に第一陣が飛来するが、飛来当初は白鳥公園に入らず、主にこの中島周辺で採餌・休息をしている。濤沸湖といえばオオハクチョウというのが通説であったが、コハクチョウも少なからず見られるようになってきており、特に早い時期にはオオハクチョウよりも多く見られる年もある。
 
(4) 平和橋
 国道244号を浜小清水・斜里方面へと走り、浜小清水市街に入る直前を右折して浦士別方面へ向かうと、しばらくして濤沸湖にかかる橋写真「平和橋からの眺め」がある。この橋を挟むようにして駐車帯があるので、車をそこに停めて観察することができる。
 筆者を含め、地元で古くから探鳥を続けている者の多くは、この平和橋から東側に広がる一帯を通称:裏濤沸と呼び、橋から西側、国道から見える範囲に広がる大部分を通称:表濤沸と呼んでいる。この橋一帯は湖口から最も離れた地域であるため、あまり潮の満ち引きの影響を受けず、淡水度が高くなっている。このため、見られる鳥の種類もこれまで紹介したポイントとは多少異なっており、濤沸湖に来たからには見ておきたいポイントである。
 春から秋にかけての時期は一見して鳥の姿が少ないように思えるが、のんびり待っているとヨシ原の陰からマガモやオカヨシガモ、カイツブリなどの親子が現れ、心を和ませてくれる。また、アジサシ類の姿があればじっくり観察してみよう。大半はアジサシであるが、ここ数年、春・秋の渡りの時期にはハジロクロハラアジサシの姿を見ることが続いており、実は以前から定期的に飛来していたのではないか、と考えら
れている。97年の晩夏には日替りメニューでクロハラアジサシとハジロクロハラアジサシが出現(どちらも幼鳥)したが、これらの識別も容易ではないため事前に予習しておくなど万全の構えでいたほうが良い。

<さいごに>
 最初に書いたように、濤沸湖は鳥の種類・数ともに大変多い名探鳥地である。しかし、「鳥が見やすいか」といえば、決してそうではない。むしろ「見にくい」部類に入るだろう。これは「姿が見えない」わけではなく姿が見えていても「識別しにくい(なんだかわからない)」のである。理由には様々あるが、決定的な要因は「鳥との距離が遠い」ことであろう。国定公園であり、さらに湖畔は牛馬の放牧地として利用されていることなどもあって、一般人の立入りは規制されているため、他の探鳥地のように鳥が遠いからといって草原や干潟まで入り、近寄って観察する、というわけにもいかないのである。
 そういった意味で、濤沸湖は鳥見を始めたばかりの方が単独でやってくるにはいささか都合が悪い場所であるといえる。特にシギ・チドリ類を始めとした水鳥類を見たい・覚えたい、という目的をもってこられる場合には、それらの識別に慣れた人と一緒に来られるのが良いだろう。ただもちろん、その場合でも識別不可能な鳥が一つか二つ出るのが普通である。観察の結果「これだ」と思う種があったにしても、少しで
もひっかかる点があるのであれば無理に名前を付けたりはせず、不明のままにしておく。これがシギ・チドリ類だけでなく、野鳥観察の基本中の基本であることはいうまでもない。
 この点に留意すれば、あとはもうのんびりどこまでも牧歌的な風景と緩やかに流れる時間を楽しむつもりで一日を過ごしてもらいたい。きっと「素晴らしいところだ」と思っていただけるものと確信する。

 (平成10年9月発行「北海道野鳥だより」第113号から転載。転載にあたり筆者により一部加筆、修正。写真は筆者提供。)