浦幌町豊北


浦幌・トイトッキの空の下

 

                              浦幌野鳥倶楽部 久 保 清 司  


浦幌町の概要

 十勝支庁管内の中心地帯広市より国道38号を釧路市に向かって約50km、十勝川の下流部に位置する浦幌町は、南北に53.5km東西に25.7kmと細長い地形を成し、729平方kmと広大な面積を有しております。
 面積の約74%は森林で、町内で一番標高のある山でも710m程度しかない概ね緩やかな山林で、広葉樹を主体とした林と、針葉樹の混じった天然林が約64%、カラマツ・トドマツ主体の人工林が約36%となっております。しかし、天然林も大径木の伐採が進み原生林と呼べる自然林は皆無の状況となっています。そのため、森林の保水力は弱く雨が降るとすぐ増水しますが、普段は水量がわずかしかないため魚影は薄くなっています。町の中央部を北から南に流れる浦幌川は延長約100kmに及び、河口近くで浦幌十勝川と合流して太平洋に注ぎますが、1町のみを貫流する全国まれに見る河川であります。耕地面積は約1万haありますが、南部は太平洋の影響を受けて夏季には濃霧の発生により冷涼な気候のため酪農を主体とした農業地帯であり、内陸部は大陸性気候により小麦、馬鈴薯、甜菜、豆類を中心とした畑作農業地帯となっています。
 町内での野鳥観察記録は、1990年5月浦幌野鳥倶楽部を結成してから会員により確認されたものだけで、特別天然記念物に指定されているタンチョウ、コウノトリ、アホウドリをはじめ、天然記念物のクマゲラ、コクガン、マガン、ヒシクイ、オジロワシ、オオワシなどを含む18目51科266種となっています。一町内でこれだけ多くの野鳥を観察できたのは、倶楽部の結成により観察者が増えたこともありますが、伐採は進んでいますが森林あり、未改修の小河川あり、河川に沿って耕作地や放牧地が広がり、十勝川下流域には河跡湖や湿原・原野が点在しており、そして22kmの海岸線を有するなど自然環境の変化に恵まれているためと思います。

浦幌町豊北地区の探鳥ポイント

1.三日月沼周辺
 浦幌町の南部、十勝川と浦幌十勝川下流域は、かっては広大な湿原地帯でしたが、戦後開拓者が入植した地域です。河川沿いの一部沖積土を除き大半の地域は泥炭層の劣悪な土壌と、1970年代までは毎年繰り返される河川の氾濫、夏期に発生する濃霧により開拓者は甚大な被害を受け続けたため、十勝川の切り替えを含めた河川改修工事や海岸線に沿って防霧林の造成が大規模に進められました。今でも築堤の整備工事や排水工事、防霧林の造成工事が続けられているため、昔の湿原地帯の面影が残っているのは地域内に点在している旧河川や河跡湖くらいのものです。
 国道38号で浦幌町内に入ると最初の市街地吉野で国道336号と合流しますが、この国道336号を広尾町の方に向かうと(交差点を右折)約6kmで豊北地区にある河跡湖「三日月沼」があります。この沼は面積10haと狭いのですが、当地方に渡りの時期に飛来するガン類やオオハクチョウ、カモ類の貴重なねぐらとなっています。1999年に沼の周辺も含めて銃猟禁止地区に指定されましたので、日中も安心して休める沼となりました。この沼の主役はなんと言ってもガン類です。
 例年9月中旬にはオオヒシクイの一行が渡ってきます。沼に氷が張る11月下旬まで最盛期にはオオヒシクイで約4千羽、マガンで約3千羽を超えますし、これまでカリガネ、サカツラガン、ハクガンなども観察されています。ハクガンは昨シーズンは8羽も飛来してくれました。オオハクチョウやカモ類も多数観察することができます。
 国道から沼までは約200m程ありますが、道路はついておりませんので国道からの観察をお勧めします。交通量は少ないといえくれぐれも交通事故に注意を要します。国道縁に車を置き沼の淵まで徒歩で行くこともできますが、収穫の終わった牧草地といえども個人の畑の中を通行しますので、所有者に断らないで入り込むことは慎んでください。
 沼一面に繁殖する「ヒシ」は瞬く間に食べ尽くされてしまいますので、日中ガン類は、収穫の終了したデントコーン(乳牛の飼料)畑、馬鈴薯畑、秋蒔き小麦畑、牧草地や放牧地で採食しておりますので、沼の半径3km周辺の舗装道路をゆっくり走って捜してください。
 越冬地に渡っていたガン類は3月中旬まだ畑には残雪があり餌の確保もままならない時期に早くも飛来し、雪の上で体力の消耗を防ぐため1日中うずくまって雪解けを待っています。4月上旬には、沼の氷も溶け牧草地の雪も溶けると繁殖地に向けての最後の体力づくりに忙しくなります。4月下旬夏鳥の渡来がピークを迎える頃繁殖地をめざしします。
 沼周辺にはわずかですがヤナギが生育しヨシ原もありますので、カイツブリ、アカエリカイツブリ、マガモ、ノゴマ、シマセンニュウ、エゾセンニュウ、コヨシキリ、オオジュリン、ノビタキ、ベニマシコなどが観察できます。また近くで繁殖していると思われるタンチョウ、アオサギ、オジロワシ、チゴハヤブサ、チュウヒ、ツバメ、ショウドウツバメなどが餌場として利用する姿を観察することができます。秋から冬期間はオオワシ、ノスリ、ハイイロチュウヒ、ハヤブサ、コチョウゲンボウなどの猛禽類が観察されます。年により変動はありますが、除雪によって顔を出している道端にツメナガホオジロやユキホオジロは数羽から数十羽、アトリやマヒワ、ベニヒワ、ハギマシコなどが数羽から数百羽単位の群れで見られることもあります。

2.原生花園
 太平洋沿岸に位置した原生花園とトイトッキ沼は、三日月沼より南東へ約3km十勝川河口と浦幌十勝川河口の間に位置しています。両河口の間は約4kmありますが、この間は砂丘を地盤とした野生植物の群落地となっています。群落地の一部約6ha程は「トイトッキ浜野生植物群落地」として道の天然記念物の指定を受けています。6月からシコタンタンポポ、マイズルソウ、ヒメイズイ、ハクサンチドリ、キジムシロ、センダイハギ、ヒオウギアヤメ、ハマナス、ハマエンドウ、エゾカンゾウ、エゾノコリンゴ、ノハナショウブ、ガンコウラン、フレップ、ノコギリソウ、コウボウムギ、ハマボウフウ、リンドウ等々高山性の草花も合わせて200種を越える花々が咲き乱れる原生花園となります。海岸線より内陸に約200m程の所、砂地と泥炭層にまたがり幅員200mを超える幅の防風・防霧保安林が1960年から造成されております。植栽されている樹種は、グイマツ、トドマツ、ストローブマツ、チョウセンゴヨウマツ、カシワ、ヤナギ、イタヤ、タモなどとなっています。防風・防霧保安林と原生花園によって、オオジシギ、カッコウ、モズ、ヒバリ、ノゴマ、ノビタキ、コヨシキリ、エゾセンニュウ、シマセンニュウ、マキノセンニュウ、センダイムシクイ、オオジュリン、カワラヒワ、アオジ、ベニマシコ、キジバトなどが繁殖していると思われますし、近くで繁殖していると思われますツバメ、ショウドウツバメ、イワツバメ、アマツバメ、ハリオアマツバメなども時々姿を見せてくれます。秋から冬にかけては、オオモズやユキホオジロ、アトリ、マヒワ、ハギマシコなどの小鳥類、オジロワシ、オオワシ、ケアシノスリ、ノスリ、ハイイロチュウヒ、チュウヒ、ハヤブサ、コチョウゲンボウ、チョウゲンボウ、コミミズクの猛禽類は毎年姿を見せてくれますし、シロハヤブサやシロフクロウ、トラフズクなども観察されています。また渡りの時期には、カラ類やミヤマカケスなどが防風・防霧林を利用して群れで渡るのが観察されます。

3.トイトッキ沼
 原生花園に食い込むように河跡湖の「トイトッキ沼」があります。沼への道は、夏はいそ釣りやシジミ貝採り、野生植物の観察、キャンプに、冬はモトクロスやスノーモービルを乗り回したりワカサギ釣りを楽しむ人がおおぜい訪れますので自然と車道ができています。普段はタンチョウの主要な餌場となっているほか、マガモ、コガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモなどの淡水ガモだけでなく、ホシハジロ、ホオジロガモ、キンクロハジロ、スズガモなどの海ガモやミコアイサ、ウミアイサ、カワアイサなどのアイサ類なども時季には数多く利用しています。またこの沼は、十勝川の河口部とつながっているため潮の干満によってわずかですが干潟のできる場所があります。そのため海岸線を移動する鳥達にとって格好の休憩場所となっているようです。これまで数は少ないですがシロチドリ、ヒバリシギ、ウズラシギ、サルハマシギ、オバシギ、キリアイ、オオハシシギ、ツルシギ、アカアシシギ、コアオアシシギ、クサシギ、オグロシギ、オオソリハシシギ、ダイシャクシギ、ホウロクシギ、セイタカシギなど33種のシギやチドリのほか、アビや5種のカイツブリ類、アメリカコハクチョウ、クイナ、バン、オオバン、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、ハジロクロハラアジサシなどが観察されております。またミサゴのダイビングが観察されたり、暴風雨の際には普段は沖に生息しているトウゾクカモメ類の避難場所(?)として利用されたり、見過ごすことはできないポイントの一つです。

4.海岸線
 十勝川と浦幌十勝川河口を含む海岸線は、鮭釣りの竿がずらりと並び釣り人の行き来する砂浜で、餌取りに忙しいメダイチドリやキョウジョシギ、トウネン、ハマシギ、ミユビシギ、キアシシギなどの常連に混ざり、ダイゼン、ヘラシギ、エリマキシギ、タカブシギ、ソリハシシギ、オグロシギ、オオソリハシシギ、チユウシャクシギ、ツバメチドリなどいずれも群れは小さいですがシギ・チドリが観察されます。カモメ類では、ユリカモメ、セグロカモメ、オオセグロカモメ、ワシカモメ、シロカモメ、カモメ、ウミネコ、ミツユビカモメなどが、冬期間海上では、アビ、ミミカイツブリ、ハジロカイツブリ、カンムリカイツブリ、クロガモ、ビロードキンクロ、コオリガモ、ホオジロガモ、ウミアイサ、ウミウ、ヒメウ、ウミスズメなどが楽しめます。十勝川は河口部を除いて氷に覆われるので、氷上でワカサギ釣りを楽しむこともできます。また氷上で休むゴマフアザラシの姿を見ることもできます。寒風吹く中での観察ですから4輪駆動車で砂浜へ出て車中からの観察をお勧めします。

5.十勝太旧船着場
 浦幌十勝川河口左岸に位置する十勝太市街地にある旧船着場は、1962年アメリカ軍(現在は海上保安庁管理)のロランC基地建設の際に地元漁民のための船着場として整備されましたが、その後、近くの厚内港・大津港が整備され交通の便も良くなったことや河口の漂砂対策のために河川改修が進み現在使用されていません。この旧船着場の水面は6haと面積は小さいですが、川や海との間にはわずかながらヨシ原もありますし、潮の干満によって干潟の現れる場所もあります。また周囲も含めて銃猟禁止区域となっているため水鳥類が安心して休める場所となっています。サギ類、カモ類、シギ・チドリ類、カモメ類をかなり近い距離で観察できます。1999年6月には13羽のセイタカシギが、2001年6月にはムラサキサギ1、ダイサギ4、チュウサギ2、コサギ1の群れ(?)が数日間観察されるなど、目の離せない観察地となっています。

おわりに
 浦幌野鳥倶楽部は結成以来11年間、これまでに開催した探鳥会は143回を数えております。年間を通じて、留真温泉の奥に延長50kmにも及ぶ砂利道が続く道東スーパー林道沿線、そして1954年まで浦幌炭坑のあった炭山地域は、針広混交林が主体の森林でコノハズク、クマタカ、クマゲラ、セグロセキレイ、カワガラス、コマドリ、ミソサザイ、ルリビタキ、アオシギ、ヤマシギ、オシドリ、エゾライチョウなどが観察されますし、幾千世、時和、稲穂の各地域は広葉樹を主体とした森林のためヤマシギ、ヨタカ、フクロウなどが、136haの公園内に自然観察路が整備されております森林公園は、市街地に隣接しており、カラ類を中心に森林性の野鳥の観察場所となっております。このほか、厚内港ら昆布刈石にかけての海岸地域は、河岸段丘が続き一部岩礁地帯もありますので、ウミウ、カモメ類、ホオジロガモ、シノリガモ、クロガモ、ノスリ、ハヤブサ、チョウゲンボウ、そして海水を飲みにくるアオバトなども観察できます。これら数ある観察ポイントの中からこの度紹介しました豊北地区は、一番多く足を運んでいる地域でありこれまでに210種類以上もの野鳥を観察しております。十勝川と浦幌十勝川の間に位置し、面積にすると20平方km程しかありませんが、紹介したとおり色々な環境に恵まれておりますので、四季折々、野鳥や野の花の観察を楽しめます。機会がありましたら一度足を運んでみてください。
 最新の野鳥情報は、浦幌野鳥倶楽部のホームページhttp://www.netbeet.ne.je/~noroをご覧ください。

(平成13年9月発行「北海道野鳥だより」第125号から転載。写真は野呂一則氏撮影。)