春 採 湖 の 野 鳥

 

                            釧路市立博物館  橋 本 正 雄   

 

 春採湖は周囲約5kmの天然湖で、釧路市の中心部近くにあります。赤いフナ「ヒブナ」が生息することで全国的に知られ、1937(昭和12)年に「春採湖ヒブナ生息地」として国の天然記念物に指定されています。
 周辺は住宅地となっていますが、湖畔には、雑木林、草原、ヨシ原などが自然に近い形で残っており、野鳥たちにとっては貴重な生息場所となっています。ことに、1975(昭和50)年に日本では冬鳥であるホシハジロが繁殖していることが発見されると、日本唯一の繁殖地として全国区の知名度となりました。
 森林の鳥、草原の鳥、水辺の鳥、さらに海がごく近いことから海鳥と、街中にもかかわらずバライティーにとんだ野鳥が生息し、湖畔を小一時間も散策すると、30種ほどの鳥に出会うことができます。そして、近年は野鳥を愛する人が増えたせいでしょうか、鳥が人をあまり恐れなくなってきており、間近から小鳥の囀る様子や、水鳥の子育ての様子などを観察することができます。
 ところで春採湖には、長い間、周辺から約2万人分もの生活廃水が流れ込み、水質汚染が著しく進み、1991(平成3)年には環境庁による公共用水域水質測定結果で千葉県の手賀沼とともにワースト1になるという不名誉なことが起きました。しかし、その後の大規模な浄化対策が効果をあげ、湖が生き返るとともに、以前に増して多くの市民がウオーキングに、ランニングに、また野鳥や草花の観察にと訪れるようになっています。


【これまでに見られた野鳥】
 筆者は1971(昭和46)年から春採湖で野鳥観察を行ってきましたが、2001年9月までに158種の野鳥に出会うことができました(表-1)。
 それらの鳥を移動習性から大まかに分類すると、夏鳥がカイツブリやノビタキなど59種(37%)、留鳥がマガモやシジュウカラなど37種(23%)、冬鳥がミコアイサやツグミなど30種(19%)、旅鳥がアジサシやエゾビタキなど23種(15%)、迷鳥がセグロアジサシやマミジロキビタキなど9種(6%)となります(表-2、図-2)。また、出現頻度から分類すると、普通に見ることが出来る鳥(54種、34%)、時折見ることが出来る鳥(25種、16%)、希に見ることが出来る鳥(79種、50%)となります(表-2)。
 希に出現する鳥が50%を占めているように、市街地にある湖のためでしょうか、移動の途中にちょっと立ち寄り休息する場所として、野鳥たちによく利用されていることが分かります。
 (ホームページ版作成者註:表-1は末尾に掲載した。)

表-2 春採湖における鳥の生息状況
 
普 通
時 折
夏鳥
21
13
25
59種(37%)
留鳥
19
12
37種(23%)
冬鳥
13
12
30種(19%)
旅鳥
21
23種(15%)
迷鳥
   
9種(6%)

54種
(34%)

25種
(16%)
79種
(50%)
158種
 註 この表は表-1の鳥類目録より作成
                                            

 

【野鳥の繁殖状況】 
 春採湖では、これまでに30種の鳥の繁殖が確認されています(表-1)。そのうち、カイツブリ、マガモ、クイナ、バン、オオバン、ヒバリ、ハクセキレイ、モズ、ノビタキ、エゾセンニュウ、シマセンニュウ、コヨシキリ、ハシブトガラ、シジュウカラ、ゴジュウカラ、アオジ、カワラヒワ、スズメ、コムクドリ、ハシボソガラス、ハシブトガラスの21種はほぼ毎年繁殖します。ホシハジロ、トビ、イソシギ、オオジシギ、カッコウ、ノゴマ、ニュウナイスズメなどは時折というか、不定期な繁殖となっています。また、繁殖確認はできていないのですが、キジバト、センダイムシクイ、ヒガラが繁殖期を通して生息するようになっており、繁殖の可能性が高くなっています。
 水鳥ではではカイツブリ、マガモ、ホシハジロ、バン、オオバンと5種が繁殖しますが、繁殖数はオオバンが飛びぬけて多く、番数は30近くと、これほど高密度でオオバンが繁殖する場所は全国的に珍しいといえます(表-3、図-3)。ホシハジロは1975年以来、日本唯一の繁殖地として毎年1~2番が繁殖してきましたが、1998年以降、ヒナが確認されず、繁殖が途絶えたのではないかと心配されています。

 

 表-3 春採湖で繁殖する水鳥の確認番数とヒナ個体数 (前田・橋本 1999)
種 名
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
ヒナ
ヒナ
ヒナ
ヒナ
ヒナ
ヒナ
ヒナ
ヒナ
カイツブリ
9
6
6
10
1
4
5
17
5
14
9
27
8
20
6
11
マガモ
6
30
17
80
3
14
4
26
6
38
8
53
8
43
8
30
ホシハジロ
0
0
5
20
0
0
1
2
0
0
0
0
1
1
0
0
バ ン
1
5
0
0
0
0
1
1
1
2
1
2
1
3
1
3
オオバン
26
55
13
26
10
15
14
60
14
45
21
56
26
86
28
76
42
106
41
136
14
33
25
106
26
99
39
138
44
153
43
120


【野鳥と市民】
 日本野鳥の会釧路支部と釧路市立博物館では、この20数年間にわたり春採湖畔において、4~11月までの毎月1回、市民を対象に探鳥会を開催してきました。近年は探鳥会に関心を持つ市民がずいぶんと増えたことと、また街中で集まり易いこともあり、毎回、30~40人の参加があります。
 春採湖の探鳥地としての良さは、先にも述べましたが、鳥類相がバライティーに富んでいることと、人に対して馴れていることから、参加者が多数いてもさほど鳥が警戒しないということです。
 湖畔に多いコヨシキリなどは、人が近づくと、わざわざ数m先のヨシの穂先に出てきて囀りだすほどです。アオジも止まっている枝の真下に人がいても、平気で囀っています。巣箱を利用するシジュウカラやコムクドリなどは、人目を気にすることなくせっせとヒナに餌運びを続けます。マガモやオオバンは、人が近づくと餌をもらおうと親子で寄って来ます。
  こんな光景を見るにつけ、かつては猟犬を湖に放して訓練する人や、鳥に石をなげる子どもいたことを思い、なんと素晴らしいことかと一種の感動を覚えます。

【引用文献】
 橋本正雄 1994. 北海道東部,釧路市春採湖の鳥類.釧路市立博物館紀要,18:33-44.
 前田紀子・橋本正雄 1999. 釧路市春採湖における水鳥の繁殖状況.同上,23:7-12.
 日本鳥学会 2000. 日本鳥類目録,改訂第6版.

(平成13年12月発行「北海道野鳥だより」第126号から転載。)


  表-1 春採湖鳥類目録

番号
種   名
生息状況
繁殖
 
番号
種   名
生息状況
繁殖
1
 アビ
.
80
 トラフズク
.
2
 シロエリオオハム
.
81
 コミミズク
.
3
 カイツブリ
82
 フクロウ
.
4
 ハジロカイツブリ
.
83
 ハリオアマツバメ
.
5
 ミミカイツブリ
.
84
 アマツバメ
.
6
 アカエリカイツブリ
.
85
 カワセミ
.
7
 ハイイロウミツバメ
.
86
 アリスイ
.
8
 コシジロウミツバメ
.
87
 ヤマゲラ
.
9
 ウミウ
.
88
 アカゲラ
.
10
 ヒメウ
.
89
 コアカゲラ
.
11
 コグンカンドリ
.
90
 コゲラ
.
12
 アマサギ
.
91
 ヒバリ
13
 ダイサギ
.
92
 ショウドウツバメ
14
 チュウサギ
.
93
 ツバメ
.
15
 コサギ
.
94
 イワツバメ
.
16
 アオサギ
.
95
 キセキレイ
.
17
 コクガン
.
96
 ハクセキレイ
18
 オオハクチョウ
.
97
 セグロセキレイ
.
19
 コハクチョウ
.
98
 ビンズイ
.
20
 オシドリ
.
99
 タヒバリ
.
21
 マガモ
100
 ヒヨドリ
22
 カルガモ
.
101
 モズ
23
 コガモ
.
102
 アカモズ
.
24
 ヨシガモ
.
103
 キレンジャク
.
25
 オカヨシガモ
.
104
 ミソサザイ
.
26
 ヒドリガモ
.
105
 ノゴマ
27
 オナガガモ
.
106
 ルリビタキ
.
28
 シマアジ
.
107
 ジョウビタキ
.
29
 ハシビロガモ
.
108
 ノビタキ
30
 ホシハジロ
109
 アカハラ
.
31
 キンクロハジロ
.
110
 シロハラ
.
32
 スズガモ
.
111
 ツグミ
.
33
 ビロードキンクロ
.
112
 ウグイス
.
34
 コオリガモ
.
113
 エゾセンニュウ
35
 ホオジロガモ
.
114
 シマセンニュウ
36
 ミコアイサ
.
115
 マキノセンニュウ
.
37
 ウミアイサ
.
116
 コヨシキリ
38
 カワアイサ
.
117
 オオヨシキリ
.
39
 トビ
118
 メボソムシクイ
.
40
 オジロワシ
.
119
 エゾムシクイ
.
41
 オオワシ
.
120
 センダイムシクイ
.
42
 オオタカ
.
121
 キクイタダキ
.
43
 ハイタカ
.
122
 マミジロキビタキ
.
44
 ケアシノスリ
.
123
 キビタキ
.
45
 ノスリ
.
124
 オオルリ
.
46
 ハイイロチュウヒ
.
125
 サメビタキ
.
47
 ハヤブサ
.
126
 エゾビタキ
.
48
 チゴハヤブサ
.
127
 コサメビタキ
.
49
 コチョウゲンボウ
.
128
 エナガ
.
50
 チョウゲンボウ
.
129
 ハシブトガラ
51
 エゾライチョウ
.
130
 コガラ
.
52
 キジ(コウライキジ)
.
131
 ヒガラ
.
53
 クイナ
132
 ヤマガラ
.
54
 バン
133
 シジュウカラ
55
 ツルクイナ
.
134
 ゴジュウカラ
56
 オオバン
135
 メジロ
.
57
 ハマシギ
.
136
 ホオジロ
.
58
 ツルシギ
.
137
 ホオアカ
.
59
 アオアシシギ
.
138
 カシラダカ
.
60
 タカブシギ
.
139
 ミヤマホオジロ
.
61
 キアシシギ
.
140
 シマアオジ
.
62
 イソシギ
141
 アオジ
63
 オオジシギ
142
 クロジ
.
64
 セイタカシギ
.
143
 オオジュリン
.
65
 アカエリヒレアシシギ
.
144
 アトリ
.
66
 ユリカモメ
.
145
 カワラヒワ
67
 セグロカモメ
.
146
 マヒワ
.
68
 オオセグロカモメ
.
147
 ベニヒワ
.
69
 シロカモメ
.
148
 ハギマシコ
.
70
 カモメ
.
149
 ベニマシコ
.
71
 ウミネコ
.
150
 ウソ
.
72
 ミツユビカモメ
.
151
 シメ
.
73
 アジサシ
.
152
 ニュウナイスズメ
74
 セグロアジサシ
.
153
 スズメ
75
 コアジサシ
.
154
 コムクドリ
76
 キジバト
.
155
 ムクドリ
.
77
 アオバト
.
156
 カケス
.
78
 カッコウ
157
 ハシボソガラス
79
 ツツドリ
.
158
 ハシブトガラス

 註1 本目録には、橋本が1971年6月より2001年9月までの間に生息を確認した種を記載した。
 註2 生息状況は次の記号で示した。
     R:釧路地方では留鳥  S:釧路地方では夏鳥  W:釧路地方では冬鳥
     P:釧路地方では旅鳥  A:釧路地方では迷鳥
     C:春採湖で普通に見られる  O:春採湖で時折見られる  U:春採湖で希に見られる
 註3 繁殖状況は次の記号で示した。
     ◎:ほぼ毎年繁殖する  ○:不定期に繁殖する  △:繁殖したことがあるが、現在は繁殖しない