礼文島に翼を休める鳥たち(春の久種湖)


道  場  好 

案内図「久種湖」

 北緯45度20分、東経141度0分。最北の街、稚内港より新型フェリーで2時間。日本海に浮かぶ、周囲72km、面積82平方kmの礼文島がある。高山植物の咲く花の島として、多くの人々に知られているが、多数の渡り鳥が寄り道をする島としても、注目を浴びるようになってきた。

 私は、この礼文島の北部の久種湖(くしゅこ)の湖畔で酪農業を営み、四季を通じて稀鳥、珍鳥の姿を見る機会に恵まれてきた。その感動の数々と、久種湖周辺の観察ポイントを紹介してみようと思う。

 久種湖は、周囲4kmで、周りに自然探勝路があり、のんびり1周すると1時間位で歩くことができる。久種湖の鳥の観察は、水辺の鳥と山の鳥、野の鳥でその確認種140種をこの周辺で見る事ができる。特に春の久種湖は、珍鳥にめぐり逢える事が多いので、目配を大いにして欲しい。

 久種湖の鳥の観察ポイントは、大きく分けて北部と南部である。(図参照)
 北部には、海に注ぐオションナイ川を中心にオートキャンプ場があり、その周辺ではマガモ、キンクロハジロ、ヨシガモ、カルガモ、カワアイサ、オシドリなどのカモ類が確認できる。またアマサギ、ダイサギ、チュウサギ、ヨシゴイなどサギ類が、湖岸で餌を取る様子も見る事ができる。

 オートキャンプ場から放牧地までは、自然探勝路があり、ジョウビタキ、アオジ、カワラヒワ、ノビタキ、コルリ、ノゴマ、ベニマシコ、カワセミなども見る事ができるので、のんびり歩く事をお勧めしたい。また、4月上旬~5月上旬の間なら、運が良ければあの”幸福の鳥”(「私だけかしら」と妻の一言)のヤツガシラに逢えるかも知れない。礼文島線の道端の芝生にはよく注意のこと。ふわり、ふわりと飛んでいたら、足を止める事。もしかしたらヤツガシラかも?

 南部には私の家、「最北端の牛乳」の店と、牛の放牧地があり、周辺の山に囲まれたミズバショウの群落の咲く湿地がある。4月上旬、毎年放牧地では100羽以上のミヤマガラス、ツグミの大群、タゲリやケリが見られ、アトリ、ミヤマホオジロ、クロジ、モズ、イカル、シメ、ムギマキ、エナガ(シマエナガ)が順を追って我家の畑に現れる。シロハラホオジロ、コベニヒワ、ノジコが現れたこともある。(シロハラホオジロやコベニヒワ、ノジコはいずれも目の前で図鑑を見ながら確認できたものであり、他の人も久種湖で確認しているのでまちがいないと思われる。)この頃は森の奥からアカゲラのドラミングの音。ウグイス、コマドリの声が盛んに聞こえてくる。

 5月上旬、牛の放牧が始まる頃、ミズバショウの花と間違える白いアマサギの群れが飛来する。外敵のカラスから身を守るべく、用心棒(牛の群れ)の周りで餌を取るアマサギを至近距離で見ることができる。この頃、順を追ってセイヨウタンポポの花が放牧地に咲くと、きまってツメナガセキレイの群れが旅から戻る。ツメナガセキレイ(前亜種名キマユツメナガセキレイ)の中に、亜種マミジロツメナガセキレイが混じる事があるので、注意して見たい。私にとっては、旅人が帰って来たかのようで、搾乳の端で恋を育むツメナガセキレイたち。空には大きな羽音をたてて急降下するオオジシギ、1羽ならまだしも、次から次と5羽も続けるとうるさいくらい。のんびりと夕暮の空にオオジシギの羽音を聞くのも良いかもしれない。

写真「久種湖から礼文岳を望む」 放牧地より山の奥への道を進むと、空にワシ、タカの類を見るのもこの頃。トビ、ノスリ、ハヤブサ、チョウゲンボウなど。
 久種湖周辺の春は、まさに水辺の鳥、山の鳥、野の鳥と狭いエリアの中で、多くの鳥がウォッチングできる所としてぜひお勧めしたい。特に朝と夕方はウォッチングできる鳥も変わるので、頭に入れておいて欲しい。

 ざっと礼文島の北部の久種湖の春の様子を書いたが、最後に、私は、51年の島での生活の中で、久種湖の周辺に翼を休めた鳥たち、稀鳥、珍鳥を特に探したのではなく、仕事のあい間に鳥を見て来た。その中には、特に印象深い鳥として、シロハヤブサやシロフクロウ、コウノトリ、ヤツガシラ、ダイシャクシギ、ユキホオジロなどの鳥がある。これらの鳥は自分以外の人も見ているが、今にして思えば、写真にでもとっておけばよかったと思う鳥との出逢いも多くあった。ルリガラと思われる鳥にも出逢ったが、写真など具体的な証拠もないため、自分だけの記憶にとどめている。それにしても、今と較べて昔は随分と鳥の数も多かった様な気がする。

 これからも、鳥を観る1人、1人がマナーを守り、より自然を大切にし、いつまでも身近で鳥の観察ができる礼文島であって欲しいと、心より願わずにはいられない。礼文島、久種湖の春は寒いけれど、きっとこの久種湖が多くの鳥との心暖まる出逢いのある素晴らしい所だったと思っていただけるものと確信する。

(平成12年6月発行「北海道野鳥だより」第120号から転載)